
2025年2月27日、江別製粉様の絶大なるご協力のもと、ブレリパ会員様ならご存じの寿物産様にもお力添えいただき「江別製粉東京ラボ」にて、北海道産小麦を学ぶ講習会を開催しました。
沢山のご応募をいただいたため、江別製粉様のご厚意で二部制に変更。想定の倍人数での開催となりました。
遠方でご参加がかなわなかった方もいらっしゃると思いますので、講習会で学んだことをレポートいたします!
北海道ってどんなところ?
北海道といえば、畑作と酪農です。
国内に流通する、
生乳→52%
国産野菜→じゃがいも84%・たまねぎ65%・その他かぼちゃ、とうもろこし、にんじん等
国産小麦→68%
を生産しています。
そこで、県別の食料自給率を調べてみたところ、2021年の統計で北海道は第一位!なんと223%です。(ワースト1はもちろん東京…0%です…)日本の食を北海道が支えてくれていると言っても過言ではありません。
そして、国産小麦の7割が北海道産!パンを焼く私たちは、必ず北海道のお世話になっているはずですね。
江別製粉さんについて知りたい!
江別製粉さんはその名前のとおり、北海道江別市にあります。札幌から車で30分ほど、小麦や煉瓦の街として知られています。
江別製粉の歴史は、昭和23年創業1948年戦後まもなくからはじまります。当時、アメリカの政策でアメリカ産小麦を日本に販売するために、全国津々浦々、製粉会社が150社ほど作られました。江別製粉もそのうちのひとつなのだそうです。
今年創業77年を迎える製粉メーカーの老舗です。
北海道産小麦がおいしい理由
まず、ひとつめは、北海道の気候条件。
冷涼な大地・北海道、札幌の年間平均気温は9.5℃です。東京の16.5℃と比べるととても気温が低いですよね。そのうえ、降雨量が少ない。
雨が少なくて気温が低いという気候環境が小麦の生育に向いています。
そして、ふたつめは、北海道の水のおいしさ。
収穫された小麦は製粉の前に北海道の水で加水、調質されます。
調質とは小麦に水を加えてしっとり寝かせること。
小麦には通常9~13%の水分が含まれていますが、皮のまま48~72時間水につけることによって15~16%程度まで上げ、製粉されます。調質につかう水の味もおおいに小麦の味に影響するというわけ。これはちょっと意外ではないですか?
北海道の小麦は、北海道の水で磨き上げられ全国に出荷されているのです。
そして、最後は江別製粉独自の技術力。これも欠かせません。
製粉する粉のほとんどが北海道産小麦のため、北海道産小麦にあわせた挽き方ができます。ゆっくり丁寧に。講習会では「小麦に無理をさせない製粉方法」と説明がありました。
大切に大切に、小麦が育てられ挽かれていく様子が目に浮かぶようです。
外国産小麦も知っておこう
日々パン屋さんに小麦粉を卸している寿物産の塩川社長いわく、国産小麦がメジャーになったといっても、主原料として使っているベーカリーは10軒のうち1軒ほど、とおっしゃいます。
国内における小麦消費量 年間5.730.000トン
アメリカ産42%・カナダ産29%・オーストラリア産・15%・国産14%
国産の占める割合は、14%ほどしかありません。
アメリカ産
DNS(ダークノーザンスプリング)パン用/120万トン
HRW(ハードレッドウィンター)パン用/90万トン
WW(ウェスタンホワイト)菓子用/80万トン
カナダ産
1CW(No.1カナダウェスタン)パン用/90万トン
オーストラリア産
ASW(オーストラリアスタンダードホワイト)うどん用/90万トン
パン用では「1CW」が最もよく聞く名前かもしれません。富澤商店では「とみざわからの贈り物1CW」という名前で販売されていますし、後にご紹介する江別製粉「スーパーノヴァ」も「1CW」です。
これらの名前は、それぞれ品種名ではありません。品質が一定になるようブレンドされたうえで日本に輸入されています。
北海道産小麦・品種の違いを知る
全国の小麦流通量中、国産小麦が占める割合は14%だと先ほどご説明しました。そのうち68%を北海道産小麦が占めています。

北海道産小麦の生産割合を見ると、
きたほなみ 81%
ゆめちから 9%
春よ恋 7.4%
はるきらり 0.9%
キタノカオリ 0.8%
ハルユタカ 0.5%
きたほなみが圧倒的に多いことがわかります。きたほなみは中力粉でもともとはうどん用。丸亀製麺がきたほなみを使用していることで、ご存じの方も多いかもしれませんね。
グラフをご覧になると、ゆめちからの生産量が近年とても伸びていることがわかります。
〇キタノカオリの復活
キタノカオリやハルユタカは、雨に弱い品種です。それだけ栽培に手間とリスクがつきまといます。
キタノカオリは、2016~2018年にかけ、収穫できなくなりました。そのため、2018年に江別製粉でも販売を中止。市場からキタノカオリが姿を消しました。
後にも述べますが、今回の講習会でもキタノカオリの黄色がかった色合いや、甘さは他の品種と比べると突出しており、好んで使っている方も多かったです。
ベイカーからの支持も厚く、復活の声が多数寄せられました。
それにこたえる形でキタノカオリは復活。江別製粉でも2022年から再販がスタート。
とはいえ、栽培にかかる手間とリスクが軽減されたわけではありません。生産農家さんにプレミアを支払い特別に栽培していただいたりして、収量を確保されているのだとか。様々な方々の尽力があっていまもキタノカオリは存続しています。
キタノカオリに限ったことではないですが、小麦が栽培、製粉されて私たちの手元に届くことが当たり前ではないことを心に留めておきたいですよね。
〇雪とともに育まれる北海道産小麦
秋まき
初冬まき
春まき
畑に種をまくタイミングは1年に3回あります。

〈秋まき〉
きたほなみ
ゆめちから
キタノカオリ
〈春まき〉
春よ恋
春きらり
〈初冬まき〉
はるゆたか
通常「はる」がつく品種は春まきです。
ただし、はるゆたかは初冬まき。病気に弱い品種のため、江別地方を中心に初冬まきが採用されています。

〇北海道産小麦の品種を比較する
〈秋まき〉
【キタノカオリ】
2003年作付開始、北海道初の秋まき強力系小麦。
小麦粉は黄色みがあり吸水率が高くミルキーな甘さが感じられる。
低温や収穫期の雨に弱く、小麦生産者泣かせの一面もある。
有名ベーカリーでの採用も多い。
生産が大変で一度は栽培中止に追い込まれそうになるも、ベイカーからの熱い声で復活した。
【きたほなみ】
2008年作付開始の中薄力系小麦。
国内で作付けが最も多く、日本麺や菓子に適している。
日本麺にすると麺色、食感に優れ、味わいも豊か。
菓子用粉多い。
江別製粉では「ドルチェ」として販売。
【ゆめちから】
2010年作付け開始の超強力系小麦。
グルテンが強靭でミキシング耐性が強いため、国産の中薄力系小麦とブレンドして使われることが多い。
栽培しやすく、収量も多い。
(初冬まき)
【ハルユタカ】
1985年作付け開始の強力系小麦。
味わいが抜群ですが、栽培が難しく生産量が極めて少ない希少品種。
その流通量の90%を江別製粉が取り扱っている。作付けから40年の記念イヤー。
〈春まき〉
【春よ恋】
2001年作付け開始の強力系小麦。
ハルユタカの子ども品種で、春まき小麦として日本一の作付面積を誇る。
風味豊かで加工適正にも優れている。
【はるきらり】
春まき小麦の中で最も病気に強い品種。
やや低たんぱくの傾向がありますが、パンにすると窯伸びがよく皮がさくっとするのが特徴。
〇小麦豆知識
【芒 のげ】
小穂(しょうすい)を構成する鱗片、頴(えい)の先端にある棘状の突起
麦についたひげみたいなもの
〈芒あり〉
ゆめちから
ハルユタカ
春よ恋
はるきらり
〈芒なし〉
きたほなみ
キタノカオリ
【パン1斤(小麦300g)を作るのにどのくらいの畑の広さが必要?】
1M×1M
結構必要なんだな、と思いませんか?
小麦違い6種類のソフトフランス比較

江別製粉技術支援担当の高野さんに6種類のソフトフランスを焼いていただきました。
北海道産小麦との比較のために外麦(1CW)を1種類入れています。
水の入り方、生地の緩み方などが品種ごとに違います。
水分量と生地の緩み違い(ベンチタイム)に注目してレシピをご覧ください。

焼き上がりの特徴を高野さんにコメントしていただきました。
~高野さん談~
今回は「ソフトフランス」で食べ比べを行います。
小麦粉の味がわかりやすいようにショートニングを使用。
「ソフトフランス」として仕上げるため、ふわふわ感がですぎず少し固めに焼き上げることを意識して配合を決めました。
【はるゆたか】
全体的なバランスがよい。
適度にゆるみ成形もしやすい、窯伸びもいい。
今回ははるゆたかをコントロールとして焼いている。
ゆめちからやキタノカオリは水が入りやすく、きたほなみは水が入らない。
【きたほなみ】
たんぱくが少なく、薄力粉に近い中力粉。
生地の色薄く、皮がクリスピーに焼ける。
引きのなさが特徴。主にお菓子用として使われるが、水の量を控えれば今回のようにパンも焼ける。
生地がゆるみやすいため、クープもよくひらく。
【ゆめちから】
ゆめちからはクープが開いていない。
品種による違いがテーマなので、今回はゆめちから100%を使用している。
そのため、力が強すぎてクープの開きが悪い。
もっと水を入れミキシングしないと生地がゆるまない。
ブレンドに適した粉。
ゆるむのに時間がかかるため、ベンチタイムも発酵の時間も長くなる。
ゆるめないと、成形もしづらく、窯伸びが悪くなる。
【キタノカオリ】
小麦の色がそのまま残る。
特徴がある小麦粉。
ゆるみが悪く発酵に時間がかかるが、窯伸びはいい。
生地の途中経過で心配になっても、仕上がりがよいパンができる。
水がたくさん入るため、もちもちとしたでんぷん質が特徴なので、お米にとってかわり主食のパンとなりうる品種。
高加水のパンが作りやすい。
最後に
今回、江別製粉の方々から北海道産小麦についてお話をうかがって強く感じたのは、小麦を作るところから、パンや麺、お菓子などに加工され消費者に届くまでを広く見届けているのが「江別製粉」さんなのだな、ということでした。
「小麦を仕入れ、製粉する」それが「製粉メーカー」ですが、はるゆたかの95%をになう製粉メーカーとして収益の一部をはるゆたかの種子生産運営費に充てていたり、生産者と市消費者を結ぶ取り組みを積極的に行っていたり。
作る人、加工する人、食べる人。
過去、現在、そして、未来。
様々なものやひとを繋いでいく「ハブ」が江別製粉。その思いをますます強くした講習会でした。
この講習会を開催するにあたり多大なるご協力をいただいた、影の大物フィクサー(すごい表にでていましたが。笑)製菓製パン材料を取り扱う寿物産の塩川社長も「外麦のほとんどはブレンドで品種がわからない。品種の違いを活かせるのが国産のよさ」とおっしゃっていました。
小麦というのは農作物ですから、生産年度ごとにぶれがでてしまうのは当然のこと。すなわち、一本挽(単品種で製粉する)は製粉会社としてリスクを負うことになります。ワインみたいに「今年は当たり年」で済まされないのが痛いところ…
同時に、ベイカーの方たちが自分の焼きたいパンを実現するための「ブレンド」を可能にするのも一本挽、なのです。
江別製粉さんは、ベイカーの立場で考え商品作りをされていることがひしひしと伝わってきました。
というわけで!
きっと、この講習会に参加された方はもれなく江別製粉ファンになったはず!
ますます小麦への興味が深まる講習会でした。
ご協力いただきました江別製粉株式会社の皆さま、寿物産の塩川社長に心より感謝いたします。
※江別製粉東京ラボとは?
https://haruyutaka.com/tokyolab